心をほどけばパレード模様のマスキングテープ/菊西 夕座
 
デフリンピックの初めて日の目を浴びた障害物競走で
披露される前にはがれおちてしまったマスキングテープ
幾年もかけて磨きあげてきた模様は内側に巻かれたまま
障害を越えて百メートルコースを彩ることなくレースを終えた

家族の前で障害に挑む姿を克明にするはずだった約束
持てる力を余すことなく引き出してみせるはずだった覚悟
繰り出す一足ごとがまるでパレードの絵になるはずだった技術
すべてはフライングで失格となってはがれおちてしまった

そこに聞こえない世界があるのと同じ確かさで動いたのは
見ることのできなかった走りが想像のうちに紐解かれ
映写フィルムのような帯を貼って空白が補われたこと
優しくデコレイトする真のマスキングテープの見えない世界

レースがゴールテープを切ることよりも尊い舞台となるのは
そこへ立つために巻かれる絆で敵と味方を連帯すること
絆が強いる粘性でもって自らを一巻きのテープに仕立てあげ
あらゆる苦難を祝福する帯状のパレードでゴールを包むこと


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