霧の中/花形新次
 
中学生の頃から
突然頭に霧がかかったようになって
ずっと晴れないままでいる
それ以来
瞬間像記憶の能力もなくなり
普通の子供になってしまった

それまでは
他人の痛みがさっぱり分からない
異常な子供だったけれど
特殊能力を失う代わりに
人間らしさを取り戻したようだ

何故なら
きみと出会ったのは
そんなときだった
見通しの悪い景色の向こうから
突然差し込んだ光のようだった

頭の霧は晴れないけれど
きみの姿だけは
はっきりと捉えられたんだ

今でもその時のことが
ずっと忘れられないでいる

歳を取りすぎて
いっそう霧は深くなって行く
もう一度
きみに会えたならば
一瞬でも
この霧は晴れてくれるのだろうか

叶わないことは分かっていても
願わずにはいられない

きみのことが───好きなんだ




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