正風亭第二幕/武下愛
 
す。私は微笑みます。何時ものように。

「はい。いらっしゃいませ。今日はお早いんですね」

「あぁ、女将に会いたくてね?」

「ふふっ、ありがとうございます。私も心より御待ち致しておりました」

引き戸を横に滑らせて開けますと。炭の焼ける独特の香りを真っ先に感じました。店内を満たしていたんですね。御客様は調理場に一番近い左の隅に在る何時もの席にガタっと座られました。私は何時もの様に、当然だと言う様に、焦げ茶色の瓶に入っている、えびすのビールを冷えた透明なグラスにコポコポと注ぎます。黄色のビールと白い泡の割合も大事なんですよね。昔は着物の勝手が分からなかったもので、よく汚していました
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