業ヶ淵の鬼の話/板谷みきょう
腹をすかせた与一に食わせようと、八年も八年も、淵のまわりを這いずり回って岩茸を探していたのだ。
その静かな愛を、斬り捨てたのは――
ほかならぬ、母の命を喰って育った与一自身と、鬼哭丸だった。
「おっかぁあああああ――!」
叫びは山々に返り、淵に吸われ、いつまでも消えなんだという。
六 淵に残る声
その夜、与一は血のついた太刀を地に突き刺したまま、姿を消した。
谷へ身を投げたとも、ほんとうの鬼になったとも、誰も知らぬ。
それ以来、萱野の村では年寄りを捨てることをやめた。
良心からではない。
(捨てた親の怨みが、子の姿で戻り、太刀を振るうかもしれん
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