あれから/はるな
 


塩辛い日々は解れ
柔らかく毛羽立って傷をかくした
あれから 百年も二百年も経った
ベランダの洗濯物はとっくに乾いて

わたしたちはたいへん愚かだったのだ
惜しみなく愛せば 事は収まると信じていた
初夏がくれば鳥たちが羽ばたくのと同じように

あれから百年も二百年も経ったけれども
同じ手足を使い 同じ言葉を使い 同じ暮らしをしている
お茶を淹れましょうと言うと
じゃあ花を活けておこうと返ってくる
射し込む光の角度が変われば
戸棚の奥から毛布を出して広げる

わたしたちはたいへん愚かなのだ
百年も二百年も経ったところで
なにひとつ覚えていない
今日のことを 明日には忘れて
また最初から愛している


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