抒情詩 ?/岡部淳太郎
 
。その意味のない世界
のうえを雲や風のように誰が作ったのかわからない歌
が流れてゆく。それが世界の、それを覆う宇宙の、た
った一つの在り方としてある。そこにどんな思想も、
崇高な人間主義もいらない。どんな不幸も、どんな惨
事も、すべては歌に包まれ、歌に見守られてあるだけ
だ。予め言われていたことも、何か大きなものから預
けられたことも、それらを含む信仰も、ただの抒情的
な歌が流して、時の向こう側に吹き飛ばしてしまう。
俺は死ぬ。その死骸のうえを歌が思い出のように流れ
てゆく。俺の死骸を歌が包み、世界が包み、世界を宇
宙が包んで、その虚空に歌が漂っている。その無意味
という救い、歌に見られて死ぬという救い、死してな
お、漂う歌にふれる喜びという無意味(という救い)。



(2022年3月)
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