抒情詩 ?/岡部淳太郎
 
俺は死ぬ。その死骸のうえを歌が流れる。俺の死骸と
いうウラル山脈を越え、俺の腕や脚というカムチャツ
カ半島を越え、歌は悠然と流れつづける。なぜ俺は死
んだのか、既に死んでしまって脳髄が破壊されてしま
った俺に思い出せるはずもなく、ただ裏切りと暴動と
爆発と血の臭いと、それらに呼応した獣たちの叫びと
がイメージとして空気中に残っては漂っている。それ
だけだ。俺は意味もなく死んだ。俺だけではない。こ
の世界のすべてに意味などなく、生まれるのも生きる
のも、死ぬのも殺されるのも、それを見て誰かが涙を
流すのも、為政者が眉一つ動かさずに命令をくだすの
も、すべてに意味などないのだ。そ
[次のページ]
戻る   Point(2)