抒情詩 ?/岡部淳太郎
世界はすべて抒情詩。どこかで爆発音が聞こえる。ど
こかで常に人が死んでいる。赤黒い血が流れ、権力が
弱い者たちを掌握し、鴉がその黒さとともに不気味に
鳴いている。世界はすべて抒情詩。こんな時に不謹慎
だと、それもまた勝手な理屈のなかにある声がする。
それでも日々は無関係に訪れつづける。遠い対岸の炎
は映画の一齣のように眺められる。その悲惨への真面
目さを充分感じながらも、生活は滞りなく流れつづけ
る。世界はすべて抒情詩。詩は大きな現実に拮抗しう
るかなどということではなく、悲惨とは別の位置にあ
るからこそ、詩はそれらへの対抗となりうる。罪のな
い子供が泣き、その親もまた泣き、
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