全行引用による自伝詩。 09/田中宏輔2
える唇、不安げにしばたたく目。もともと見ばえのするほうではないし、おびえる姿は見る者に哀れを催させた。
(P・D・ジェイムズ『わが職業は死』第二部・15、青木久恵訳)
ダルグリッシュとマシンガムはソファに坐った。スワフィールド夫人はひじかけ椅子の端に腰をかけて、二人を励ますように笑いかけている。夫人は陽気な部屋に、手製のジャムに似た、あるいは指導の行きとどいた日曜学校、ブレイクの《エルサレム》を歌う女性コーラスに似た安定感を持ちこんでいた。二人はすぐさま夫人に親しみを覚えた。それぞれ違った人生を歩んできた二人だが、どちらも彼女のような女性に会ったことがある。彼女が人生にボロボロにすりきれ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(11)