全行引用による自伝詩。 09/田中宏輔2
 
訳)

(…)ほんの一瞬ではあったが、娼婦のシオマーラを通してぼくは二度と会うことのなかったあの女の子を思い出したのだ。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』最後の失敗、木村榮一訳)

 フェリックスはあえぎながら木の根元に横たわった。眩暈がしたし、すこし吐き気がした。自分の大腿骨の残像が、この世のものならぬ紫色に輝きながら目のまえに漂っていた。「ミスター・ラビットに会いたい」フェリックスは電話に向かってそうつぶやいたが、答えはなかった。少年は泣いた。もどかしさと孤独の涙だった。やがて、目をつぶって眠った。眠っているうちに、星々から滑り降りてきた蜘蛛が銀色の絹ならぬ糸を出
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