全行引用による自伝詩。 09/田中宏輔2
けない。
(マレー・ラインスター『失われた種族』中村能三訳)
不安な気持が──努力によってであれ自然にであれ──突如雲散霧消すると、人間は喜ばしい自由の感覚、チェスタトンが「理屈では割りきれない良き知らせ」と呼ぶ感じを経験する。これは単に問題そのものが消え失せたからではない。安著感が生じたおかげで突然自分の存在を「鳥瞰図的に」見ることができるようになり、遙かなる地平の感覚に圧倒されるからである。人間は、自分は実際には宮殿をもっているのにこれまで精神的なスラム街に住んでいたのだということに気づく。(…)逆説的に言えば、人間はすでに自由であり幸福なのだが、誤解が妨げになって人間はそのことをま
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