全行引用による自伝詩。 07/田中宏輔2
 
不幸のなかでも」と、エレディアは身振りをまじえ、宮殿の避雷針を見つめながら語る。「詩人の不幸ほど甚だしいものはないでしょう。さまざまな災悪よりいっそう深く苦しめられるばかりでなく、それらを解明するという義務も負うているからです」詩人はわめくような声で、自己弁護を続けた。自分も不平の声をあげていたにもかかわらず、修道士は聞き咎めて詩人のほうを見、おしゃべりをやめずに心のうちで思った、泣き虫だな、この男、自分の苦しみと馴れ合っている、いつも死を口にしながら、ひどく用心深く庭園の石段を降りる。
(レイナルド・アレナス『めくるめく世界』34、鼓 直・杉山 晃訳)

 一度に考えることはひとつにしてお
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