全行引用による自伝詩。 07/田中宏輔2
さの中、下を流れる川の穏やかな呟きを耳にしながら、彼は雲が予言者の顔、雪原を進むキャラバン、帆船、雪の入江と絶え間なく変身する様子を眺めていた。あのときはすべてが安らかで穏やかだった、そして、まるで目覚めのあとの空ろなぼんやりとした瞬間のように、静かな快さに包まれて彼はアレハンドラの膝の上で何度も頭の位置を変えながら思っていた、項(うなじ)の下に感じる彼女のからだはなんて柔らかく、なんて優しいんだろうと、そのからだは、ブルーノが言うには、肉体以上の何か、細胞や筋組織、神経でできた単なる肉体以上に複雑で曖昧なものだった、なぜなら、それは(マルティンの場合には)すでにもう〈思い出〉でもあったから
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