秋、帰る 蒼風薫/梅昆布茶2
 
その年の秋も、あちらこちらへ様々の波紋を投げ掛けながら冬へと育っていった。

東京のような雑多なるつぼにあっても例外ではなかった。

かの都会の片隅、聞こえよく庶民の人情が息づいているなどと言われている下町ではあるけれど、実際のところ住民課からは大いに疑問の寄せられる、そんな廃れた街に一人の少女が暮らしていた。

切ない半木造アパートの1階の一番北向き、夏には涼風涼風が避けて通り、冬には木枯らしの格好の標的、そんな部屋である。

秋は乳離れをしないままに捨てられた子猫のように少女に付き纏って、日々自分があるということを色彩でも匂いでも音によるデモ主張をやめなかった。


『ん
[次のページ]
戻る   Point(4)