ケイヴ/おまる
 
冬日和で、いつもは汚れた大気に隠れている星空が姿を現していた。ビルが隙間なく並んでいて、それが地平までずっと連なっている。街道では人々が蟻のようにゾロゾロ動いていた。誰も星空なんかには目もくれていなかった。瞳くんもまた、その一人だった。瞳くんはただ変わりたかっただけで、ここへ移ってきた。もっとも、ここでの生活は瞳くんの先を越して、いつ何時でも変わってしまう、次々と役割は変わり、それをこなしていけなかったら、見捨てられるだけだった。それでもここに漂泊し、生きている。瞳くんは何者でもなかった。

今の職場でマキちゃんと出会った。その時は、瞳くんは何の予感ももっていなかった。マキちゃんはすでにマ
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