水霊譜/木立 悟
波が波に描く絵が
次々と現われては消えてゆく
海を覆う点描が
鳥を照らし点滅する
蒼い光のひとがいて
歌い舞う花のうしろで
草に沈む岩を見ている
海からも声のなかからも
静かに蒼はひろがってゆく
皆が降りていく場所に
花は降りてはいかなかった
花は地上を見た
花は
地上にいた
草と草の間の光が
魚のように川をめぐる
暗がりは動かない
風に染まり 風を脱ぎ
水は水の上をすぎる
むらさきを聴く
空を聴く
水を奏でるものを聴く
途絶えてはつながり
午後の鐘を鳴らし
鳥の姿につらなり
空に映り
空を映す
閉じた目
なかばひらきかけた目に
弦は終わり 手は重なり
汗は手首をうなじを伝う
音はふたたび見えなくなり
小さく聞こえる花とともに
かがやきを寄せる波の上に
もうひとつの絵を描いてゆく
戻る 編 削 Point(6)