新宿の幽霊たち (「センテンツィア」改題)/室町 礼
 
トクラブ、風俗店、ラブホテル、パチ
ンコ店の柱や庇(ひさし)や窓ガラスや扉のなめらかな鏡の
なかを巡ってきたのだ。男はひょっとするとその
ビルの裏道を逍遥しているのかもしれなかったし
、笑いかけているのは野良犬の仔にだったのかも
しれない。
露店には黒い手で摘まれた果物が山積みになって
いる。それはもうだれの汗も爪痕も残さない。そ
れはもう果物を異国から運んできた巨大タンカー
を映さない。それはもう西陽の影になった木立の
シルエットを映さない。それはもう舟になった男
の瞳にも映らない。果物売りには〈かれ〉がみえ
ない。

夢のスクエア ── 祭壇は酒場の裏にあって、そ
こには色ガラスの林があった。色ガラスの底には
琥珀色の吐息が忘れられている。ちりちりちりと
空から落ちた光がガラスの肩にのってちいさな火
花をあげた。〈かれ〉は跪き、祈りを捧げる聖者
になる。祝宴がはじまる。天体からは、もうその
姿はみえない。
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