東小金井『ナポリタン』/北村 守通
 
   『ナポリタン』


 失敗だった。
 ナポリタンは。
 味は申し分なかった。子供の時に食べて以来、忘れていたケチャップの酸味が甘さがやわらかく口の中に広がり、そしていたずらっぽく唇のまわりにまとわりついた。
 しかし
 しかし、しかし、しかし!
 私はすっかり忘れていた。
 ここは
 大学のそばで発達してきた町だった。この店はいわば「学生街の喫茶店」というやつだった。そう。食べ盛りの若い、若い学生たちが相手の喫茶店なのである。だから、写真ではわからなかったが、食べ物は全てキングサイズだった。デカ盛りだった。たのんでもいないのに、デカ盛りだった。三十年前ならば平らげられたか
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