一本道/秋葉竹
よく憶えていない
ただそこで感じたあのひとのやさしさを
全身が、追い求めたのだけは憶えている
月光にばかり照らされた道ばたには
みえないだけで無数の演奏家たちがいて
止むことなく胸に染み入る歌声を
終わりのない時間の中で
歌いつづけてくれていた
まるでララバイの歌声かなにかのようで
疲れを癒すやさしさで
そのさきにある小さな町への一本道を
満月は、照らし
歌声に、溺れ
ただ、全身が逢いたがってるのは
おそらくたえまない幻の
あのひとへの郷愁なんだろう
そんな寂しさを、いまもまだ
手離せないのはただ
なにも憶えてないけど
とびっきりの弱さの極みなんだろうな
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