全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
 
り逃がしたとしても、べつに気の毒には思わないわ」
(カート・ヴォネガット『青ひげ』20、浅倉久志訳)

「やれやれ」と、ロンドンへ帰る汽車に腰をおちつけたとき、水力技師はくやしそうな顔をしていった。「とんだけっこうな仕事でした。親指はなくするし、五十ギニーの報酬はふいになるし、いったいなんの得るところがあったでしょう」
「経験です」ホームズが笑いながらいった。「経験はそれとなく役にたつものですよ。きみはそれをことばにして話すだけで、これから一生のあいだ、すばらしい話し相手だという評判を得ることができます」
(コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』技師の親指、阿部知二訳)

 
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