全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
 
面の下にたくさんの顔が隠されているのか、それとも一つの顔がたくさんの仮面を被っているのか、彼にはどちらなのか判らなかったが、自分自身についてもそのどちらなのか判らないのだった。
(ジョン・クロウリー『リトル、ビッグ』?・[2]・?、鈴木克昌訳)

 記憶とは奇妙なものだ。記憶は、ときどきわたしたちがそう信じたくなるほど鮮明にはなりえない。もしなれるなら、それは幻覚に似てくるだろう。ふたつの場面を同時に見る感じになるだろう。いちばん現実に近い心像がうかぶのは、夢のなかである。それ以外の場合、わたしたちの記憶像は多少ともぼやけている。
(ジョン・ヴァーリイ『スチール・ビーチ』下・第一部・06、
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