全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
 
は見当をつけたが、まさにそのとおりだった。
 いかにも職業的な快活さを耳にしても、それで快活になれるわけではない。
(テネシー・ウィリアムズ『天幕毛虫』村上春樹訳)

愛にしろ憎しみにしろ、彼は強い感銘を受けたことが一度もなかった。
(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』5、堤 康徳訳)

 彼の本名を直接本人に尋ねた人は誰もいなかった。さすがに村長は一度くらいきいてみただろうが、返事はもらえなかったのだと思う。今となってはどうしようもない。もう遅すぎるし、おそらくそのほうがいいのだ。真実というものは、へたに手を出すと怪我をするし、生きてはいけないほどの深手を負うことだってある
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