全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
様が走っているのを。左右対称の人工的な傷痕、この光のいたずらがなければ見えなかったであろう傷痕。その瞬間に、まだ信じられない気持ちで、これほど残酷に彼女を痛めつけた事故がなんであるかをさとる。
もっとも強烈で、容赦ない、極度の打撃──
老齢。
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』第二話、浅倉久志訳)
私は、現実を暗示してはいるものの実はその現実をいっそう明確に否定するために点(つ)いているに過ぎないような暗い明かりの並木道を歩いた。
(ハインリヒ・ベル『X町での一夜』青木順三訳)
存在せぬ神々を崇拝するほうが、より純粋なのではありませ
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