図書館の掟。/田中宏輔
 
がいたことを告げていた。
そこには二十世紀半ばころに亡くなった
アメリカの女流画家がいるはずだった。
図書館には頻繁に足を運んでいるのだが
いつもだれかが彼女を借り出していた。
きょう来てみて
だれも借り出してはいないことを知って
よろこんでこの書架の前に来たのに
彼女の姿はなかった。
写真で見た彼女は美しかった。
六十代に入ったばかりのころの彼女の写真だった。
きょうこそは彼女の話が聞くことができると思ったのに
司書に訊いても彼女の死体がどこにあるのかわからなかった。
だれかが無断で連れ出したのだろうか?
無断で死者を連れ出したりすると
どんな罰則が科せられるのか
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