図書館の掟。/田中宏輔
 
メモのコピーをファイルのなかにしまうと
帰り支度をはじめた。


     *


図書館長は、連日
詩人の原稿やメモのコピーに目を通していた。


  書かない人間のほうがよく知っている。
  並みの書き手はあまり知らず
  優れた書き手はほとんど知らず
  最良の書き手はまったく知らない。
  だから書くことができるのだ。
  書かない人間は愛することができる。
  愛することについて書く人間は
  真に愛したこともなければ
  真に愛されたこともないのだ。
  作家とは恥ずかしい輩だ。
  詩人とは恥ずかしい連中だ。
 
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