図書館の掟。/田中宏輔
 
歩合はそう悪くない。
おれの儲けもけっして小さくはない。
なにしろおれの命がかかっているのだからな。


     *


図書館長は椅子の背にもたれて
男が去っていくときの表情を思い出していた。
他人を小ばかにしたようなあの笑みを。
無理解というものが
どれだけ芸術家にとって大切なものか
共感されること以上に
バカにされたり
無視されたりすることが
芸術家にとって
どれだけ大切なことなのか
あの男は知らない。
そう思って
図書館長はほくそ笑んだ。
偶然が生み出す芸術のすばらしさを
いったいどれだけの芸術家がほんとうに知
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