図書館の掟。/田中宏輔
 

逃げ回った日のことを。」
「そのあとわたしたちがどうなったか
おぼえてらっしゃるかしら?」
「おぼえているとも。
ぼくの父が政庁の高級役人だったので
二人ともお咎めなしだったじゃないか?
どんな罰が下されるか
二人してあんなにビクビクしていたのに。」
「それからわたしたちは
二度とふたたび
二人いっしょに
この図書館に訪れることはなかったわね。」
「そうだった。
訪れる必要があるときは
かならず別々の日にしていたね。」
「子どもたちのことはおぼえてらっしゃるかしら?」
「ぼくたち二人の子どものことだね。
どうしてそんな聞き方をするんだい?
デイヴィッドとキャ
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