図書館の掟。/田中宏輔
 
かし、特定された人物が存在しないのですよ。」
刑事は司書にファイルを手渡した。
「記録に間違いがあったとでもおっしゃるのですか?」
ファイルを持った司書の手に力が入った。
「いえいえ、そうではありません。
記録は存在するのですが
その記録にあった人物は生きてはいないのです。
五年ばかり前に死んでいました。
遺体は火葬されていました。」
司書は目を瞠った。
「それでは
死者の言葉を耳にした生者はいったいだれだったのでしょう?」
刑事は声を落として言った。
「死者解放運動の者たちの仕業か
他の都市の図書館の謀略か
そのどちらかでしょう。」
司書は表情を失った。
「被害
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