図書館の掟。/田中宏輔
つくことができないのです。」
「どうどうめぐりだわ。」
刑事が口を挟んだ。
「わたしたちは、あなたが直接彼を殺したとは考えていません。」
「当然だわ。わたしは殺していないもの。」
容疑者の女は死者の首を見た。
死者の首は異様にねじまがっていた。
首を吊った痕がなまなましかった。
「しかし故意に他者を自殺に追い込むことは刑罰の対象になるのですよ。」
「証拠はあるの?」
「死者の証言しかありません。」
「起訴は無理ね。」
「あなたは法律が変わったことをご存じないようですな。
ほかの死者にしか語られない死者の言葉というものがあるのですよ。」
容疑者の女の表情が一変した。
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