図書館の掟。/田中宏輔
ら
美しい女性の死者の視線を感じた。
一度に一人ずつ
というのが図書館の掟だった。
ぼくはアイルランド人の貴族の娘を立ち上がらせると
彼女を元の書架に連れいき
手錠をはめて
さきほど目にした女性の死者のところに足を運んだ。
彼女の姿はなかった。
この図書館にはたくさんの書架があり
見間違うこともあるのだけれど
さきほど目にした女性がいた本棚のところには
びっしりと死者たちが立ち並んでいた。
二十世紀後半の東南アジア人の死者たちだった。
第一階級の死者たちの棚だった。
それらの老若男女の死者たちのなかには彼女はいなかった。
額の番号を見ても抜けている番号はなかった。
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