図書館の掟。/田中宏輔
メモのコピーをファイルのなかにしまうと
帰り支度をはじめた。
*
図書館長は、連日
詩人の原稿やメモのコピーに目を通していた。
書かない人間のほうがよく知っている。
並みの書き手はあまり知らず
優れた書き手はほとんど知らず
最良の書き手はまったく知らない。
だから書くことができるのだ。
書かない人間は愛することができる。
愛することについて書く人間は
真に愛したこともなければ
真に愛されたこともないのだ。
作家とは恥ずかしい輩だ。
詩人とは恥ずかしい連中だ。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)