図書館の掟。/田中宏輔
 
 作者も読み手を創造する。

  しかし
つぎのような可能性は
  考えるだけでもむなしくなるものだ。

  読み手は作者を想像する。
  作者も読み手を想像する。


図書館長は
このメモのコピーの上で
左の肘をついて
手のひらにあごをのせた。
手のひらに
今朝剃り損ねたひげがあたって
ジリリと小さな音を立てた。
もう何度も目を通しているコピーであったが
図書館長の
右手の人差し指が
このメモの言葉の上を
ゆっくりとなぞっていった。 


     *


図書館長の目が
詩人のメモの上を走る。


 
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