図書館の掟。/田中宏輔
 
被害が小さなうちに見つかってよかった。」
刑事が立ち上がって部屋から出て行った。
司書は両の手で頭を抱えてテーブルの上を見つめた。
テーブルの上には刑事の置いていったファイルがあった。
司書にはファイルをすぐに開ける勇気がなかった。


     *


「おぼえているかしら、あなたも?
わたしたちがまだ学生で若かったころ
この図書館でお互いに一目で恋に堕ちて
図書館警備の者たちに追われて
逃げ回った日のことを。」
「おぼえているとも。
きみといっしょに
この迷宮のような図書館のなかを
二人して書架と書架のあいだを走り抜け
警備の者たちを振りほどこうとして

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