図書館の掟。/田中宏輔
を踊る。
老人の死者たちは
近い過去よりも
遠い過去について
好んで思い出す。
老女は幼い頃に習った
バレーを踊っていた。
月の光が
老女の白い肌に反射する。
老女の影が地面を動く。
老女の足が地面をこする。
だれにも見つからない場所で
老女の死体はバレーを踊る。
老女は画家になるよりも
ほんとうはバレリーナになりたかったのだ。
人間はほんとうになりたいものにはならないものなのかもしれない。
老女の死体はバレーを踊る。
月の光のもとで
老女の死体はバレーを踊る。
月の光のもとで
無声映画時代の映画のように
ぎこちない動きだけれど
老女の死体はバレーを踊る
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