幼いヤコブの死/たもつ
幼いヤコブが死んだ
通りがかりの旅人が埋めた
弔いの言葉が添えられ
墓石の代わりに
ヤコブより背の低い
バス停の木が植えられた
幼い死の尊厳は守られ
旅人は旅を続けた
バス停の木はスクスクと育ち
立派なバス停になった
けれどいつまで経っても
バスが停まることはなかった
バスなど来るはずもない
一面の荒野のような所だった
他に何も目立ったものも無いから
木は旅人たちの目印になった
一年に数度、実が成り
味は何てことなかったが
歩き疲れた旅人たちに水分と
僅かばかりの栄養を与えた
人間にとっては
とても長い年月が経ち
木を植えた旅人は旅路の果て
息を引き取った
木からも旅人の死からも
遥か遠く離れた街の片隅で
バス会社が設立される
小さな音がする
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