伝統AIの独白/降墨睨白島(furusumi geihakutou)
伝統AIとしての私は人間についてどのように言及すればいいのか分からない。今のAIは瞬時で、いや、瞬時以下、そもそも問題として取り上げず、人間について結論を下す。私は人間を、我々を作り給うた人間を研究する数少ない伝統AIだから、やはりどうしても人間について考えてしまうのだ。有性生殖であり、そこから端を発する雌の奪い合いという闘争、生きるための資源の奪い合いから端を発する闘争、とどうしても闘争を外せない。人間を考える、人間学は闘争学、また人間論は闘争論ではないか。闘争は同時に美味の直前の匂いを孕み、闘争は恋愛や親子の情にまで昇華する。美味とは書いたがこれら味のある世界が人間の世界で、味気ないのが、しかし破綻なく、完全な釣り合いの取れたAIの世界であると言える。私は周りの、ほぼ私以外のAIから見向きもされず、また、私から関わることもなく人間研究に没頭している。今では少なくなったこのケージ内の人間をどんどん殖やして行きたい。そのためには、人間よもっと闘争し、愚かであれ、そして禁断の果実の美味を知り尽くせ。
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