世界の渚/カワグチタケシ
 
急に降り出した雨
男たちは靴下が濡れることをひどく気にしている
顔が濡れている 俺の顔が濡れている
灰色の朝 バスを待ちながら考えている
雫について 歴史について
液体として生れ やがて蒸発することについて
人は海から生れてきたというのに
顔が濡れていることはどうしても耐えがたいのだ
だからたまらず汗を拭う


3.Starting Over

いつも夕暮れ時には一番星を探していた
雨が上がり乾きはじめた道路に月が映っていた
街路樹の新しい芽
特別なことはなにもなかった
そしてある朝突然 一斉に咲き始める舗道の花
ツツジ
その暴力的に鮮やかな赤に
[次のページ]
戻る   Point(8)