マヨイガ/ちぇりこ。
記憶の中に家があって
記憶の中に家族が居た
毎朝同じ時刻に
家族のような人たちの出て行く玄関は
毎朝違う場所にあった
ある日
家族のような人たちは
夏を連れてきた夕刻に
消えてしまった
人気のない夜の波打ち際に
テレビが置いてあった
14インチのブラウン管
画面の向こうでは
初老の早口で喋る男性が
身振りを交えながら喋っていた
傍らで人の良さそうな
ふくよかな女性が何も喋らず
微笑みながら頷いている
柔らかに抽出する光芒は
夜の海を照らしている
テレビ画面は
そうであるべきことのように
照らし続ける
海岸線を
灯りのない海面を
行ったきり戻ってこない航跡を
時おり
喝采のような
どよめきが沸き起こるのは
寄せて返す
さざなみの音
仕事の終わり
疲れ果てて帰路に着く
家の灯りの
まぼろしが見える夜には
決まって団欒の幽霊が
規則ただしく
キッチンを占拠しているので
玄関を開けるのに
躊躇する
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