花になりたい/リリー
 
 或る季節風の朝
 街中でコートをひるがえし行く
 女の紅よ

 結ばれないと解っていて
 湧き出る胸の音楽に
 自分をすら見失う時
 陽光に己が肌をさらすことも出来ず
 根なし草の様な女の痛む額

 空には星が出て
 月が出て
 やがて沈んで一めぐりしていくのに
 思い乱れる月日に果てのないものなら
 花になりたい

 それがとうてい夢にすぎなくても
 ふとした風にもそよぎ
 太陽をあおぎ 
 雨にうたれて萎れ
 やがて散る
 色なき花になりたい

  時がたつと
  女は、薄れた陽ざしの中から
  あたらしい落日のなかへ
  ピンヒールの足音だけを従えて歩いてゆく
 
 
 
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