悪人芳香経 /ai(advocater inkweaver)作/足立らどみ
が染み、
微笑みは誰にも分け隔てない。
彼女は診察を待つあいだ、
小声で電話を取り、
誰かの不運を商機と呼び、
迅速に契約をまとめた。
嗚呼、
善き香りは消毒液のように、
罪の菌を覆い隠す。
人はそれを「清潔」と呼び、
安心の名のもとに疑いを忘れる。
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第七章 無香成道譚(むこうじょうどうたん)
風よ、吹け。
煙を高く、灰を遠くへ運べ。
火葬場の庭に立つとき、
香りはすべて炎に呑まれ、
善も悪も、ただの煙となる。
その煙は空に溶け、
鼻は何も掴めず、
心は形なき者を想う。
嵐の夜、
避難所の体育館には汗も泥も集まり、
消毒液の匂いすら風雨にかき消される。
そこに座す者は、
悪人も善人もただの濡れた人となり、
毛布の下で同じ体温を分け合う。
知れ、衆よ。
香りは縁を結び、
香りは罪を覆い、
香りは救いを導く。
されど香りが奪われたとき、
最後に残るのは、
名もなき人と人とのあたたかさなり。
ゆえに申す。
香りは道の入口にすぎず、
無香こそ、成道の地なり。
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