朧/霜天
 
何度目かの電話の奥で
口笛が聞こえた気がする
鼻歌だったのかもしれないけれど
もう遠くて追いつけない

近づいてくる海岸線からは、遠くは見えない
近くなら、というとそうでもない
指先はどこを向いているだろう
いつか僕らも呑み込まれるかもしれないね

潮騒が離れてはまた近づく
ざわざわざわと続く音の隙間、そこで生きている僕ら
呼吸を早めたり止めてみたりしながら
ガードレールの向こう側で両手を広げて歩く


落ちるまでの距離を
地図の上で探す
それはとても古くて
僕らの街はかすれて見えない


やがて口笛は止まって
誰かの鼻歌は行き先を探し出す
その歌の名前を僕は知らない
朧、遠い面影の薄れていく頃
あの日の朝の空には、月がまだ残っていたかもしれない
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