〈根源悪〉の原体験/異邦の恐怖──生かされ在る際に/ひだかたけし
 
ている

私は
自分の存在が
ナニカに気付かれてしまうこと
そのことにただひたすら怯えている



いつのまにか工員が一人
機械工場の入口に立っている

工員は
灰色の作業服姿に
つばの付いた
灰色の四角い作業帽を被り
背が高くマッチ棒のように痩身だ

私はうずくまり目をきつく瞑っているのに
彼の姿やその思念がつぶさに分かってしまう

彼の注意は
最初からジブンに向けられている
彼は私の存在に気付かないふりをして
刻一刻と私に向かって近付いて来る

逃げなければ逃げなければ!
私は恐怖に大声をあげそうになるのを必死に堪えながら
立ち上がろう
[次のページ]
戻る   Point(8)