百億の目の数だけ目の位置があり/狸亭
 
目があるから
百億の目の数だけ目の位置がありそれらの目たちは同時に別の物を見ているわけだ
空を飛ぶ飛行機の窓から地上を見下ろすと
悩みなどは消えて 山野も河も街も村落も
海に浮かぶ船も小さく遠い世界に見える
夜空を焦がすクエートの油田の炎上も美しい
ひしめき建つ高層ビルの部屋から見下ろしても
錯綜しうねる道路上の自動車の群れはミニカーだ
こんなに高いところから爆弾を落とし
地上の混乱を見ても 遠い世界のことで
だから悲惨は見えない
目は大地にもある
粘土作りの小屋の中の暗い片隅に肩を寄せ合って
粥をすする老婆の皺よった唇は
震えながら不明朗な言葉を漏らす
足元に横たわ
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