メゾン 『ノワール』/千月 話子
 
には、小鳥が住んでいる
あまつさえ 太陽も雨も受け入れた部屋は
来年の夏 色とりどりの花咲く
小鳥の巣になる予定
 広げた羽根には、種が隠れているものだから


最後のあの人が、106号室の浴室で
美しい髪と白い体を洗っている
薄いオリーブ色をした
マルセル石鹸の泡が
しっとりと 優しく包む
あなたの丸い曲線を
 空では、白い月に雲がかかる
 そんな2つのシルエットを
 すりガラス越しに そっと見ていた


翌日には、もう
手入れもされない白薔薇の
ツタを門扉に絡めようか
引き止めて「行かないで 」
と 言えない代わりに・・・。


きっとあの人は
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