メゾン 『ノワール』/千月 話子
 
郵便受けに溜まった新聞が日焼けしていた
古い日付は、風に晒されて
更に風化した遠いあなたの
背中に張り付いて 
帰ってこない のに


201号室の、窓から入る西日を受けながら
忘れていった マリーゴールドの
鉢植えに水をやる
 乾燥した黄色い部屋に
 水蒸気と埃がいつまでも 
 浮かんでいた


ここから手を振って見送った
この小さな林を抜けて行く
その先が、あなたの世界
微笑みが同じ高さで出会っても
あなただけ上昇してゆく
ガラス越しの私を 残して


天窓を開け放って
誰かが天窓を開け放って
出て行ってしまった・・・


205号室には
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