寒紅/佐々宝砂
 
口紅を持たぬ日ありき麦芽ぐむ

伐られしは冬萌赤き若木なり

孕みをれば死は許されず冬の蜂

      *

紅挿すや湯冷めせしほど待ちわびて

寒紅を般若の面の裏に刷く

逢ひみてののちの化粧や寒の入

願はくば我を放てよ木枯に

      *

寒林に紅を挿さんと火を放つ

凍蝶は君が小指で殺すべし

君に与ふ 白寿の我のくちびるを



(初出・蘭の会2002年1月詩集)
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