あいつとわたし その3/佐々宝砂
あいつは普通の人間なのだと、地上でごく当たり前に生きているひとりの男なのだと、そしてあいつとの交渉はつまりセックスに過ぎないのだと、そういうことにしてしまいたい誘惑に駆られる。そうしてしまえば、これら一連の詩の内容が、非常にわかりやすいものになりうるからだ。だがわたしはそのように書きたくはない。ベッドの上でのたうつ肉体についての発言をわたしは不得意とするがそれが理由ではない。その手の交渉をわたしはやれないことはないしやらないとは言わないし実を言えばやりたくないわけでもないが、あいつはそうした交渉の相手ではない。またあいつはそれ自体の象徴ですらない。ではあいつはなにものかと問われてもわたしには答えら
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