風鈴/夏井椋也
 
想い出したように
鳴る

風鈴が
躊躇うように

あなたが
幼い頃の話をする時のように

鳴る
風鈴が

逃げる風を追い駆けようとして
諦めたように

鳴る

あなたの後ろ姿は
熱気にほとんど塗り潰されて

鳴らない
もう浴衣の柄すら想い出せない

汗が
何も吹かない胸の奥を伝う

伝う

夏とは名乗らせたくない
この煮えたぎった時間の中で

風鈴だけが

鳴る


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