あいつとわたし その2/佐々宝砂
闇にはいろいろな色があるのだと
幼稚園児だったわたしに
教えたのはあいつだが
あいつの言い分が
嘘っぱちだと気づいたのは
迂闊にも
二十歳すぎてからだった
あいつは今夜も黒で装っていた
笑止千万にもスタイリストなのだ
昔からそうだ
しかし
黒服で装っても
あいつは闇の住人ではない
あいつがわたしにくれるのは
あいつらしく薄い闇
あいつがわたしから奪うのは
わたしらしく薄い光
だからこそ
これは取り引きなのだけれど
そのことに
わたしが気づいたのは
あまりにも迂闊な話だけれど
いまさっき
明かりのないこの部屋で
あいつは
闇よりもうしろぐ
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