素顔/リリー
 

 化粧水を浸したコットンパフで
 やさしく押さえる目元や頬に
 いつのまにか
 またシミがひろがっている

 ささくれ立つ気持ちの
 燃えのこる夜
 シーリングライトで照らされる
 昼間の虚飾を剥いだ顔は
 赤色土の地層を露わにした山はだを
 転がり落ちて崩れた石が
 砕けて角のとれたものかもしれない
 指先の皮膚で感ずる
 石の渇き

 これこそ、眼の前にすえる
 てめえの顔だ
 メイクボックスの鏡を覗けば
 どろんとした暗鬱な沼地の辺りから
 小さな青空が見えて
 白銀の剣のように風を裂く
 夏つばめ

 このあいだ染めた髪の
 しいんとしたコスモスに光る
 あの星屑は、どれだけの歓びを
 憶えているだろう
 ひとりさめて
 微笑むこともできないでいる

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